『潤一郎ラビリンス〈4〉近代情痴集』谷崎潤一郎著

■『潤一郎ラビリンス〈4〉近代情痴集』谷崎潤一郎


彼女がその名を知らない鳥たち』を読んでいるそばから、読み終わったら次はこれだとなぜかずっと気になっていた本。
谷崎にとっては渾身の長編というんではない短編の寄せ集めにすぎない文庫だが、なんとなく谷崎らしさに触れたかった、谷崎ってそういえばどんなんだったっけ...を思い出したくて読み始める。
なぜだろう...。


谷崎の作品というのはきまって、官能とか情痴とかいう単語で説明されることが多く、しかもその蠱惑的な語にそそられてたびたび作品を手にしてきたというのもまた事実であるが、たいてい、期待したほどの刺激や驚きはなかった...ということで終わってしまう。


時代が疾走しすぎたせいであろうか。


いやいやいや、彼から読み取らなければならないのは、単なるポルノではないのだよ、わかってはいるんだけどね。
で、読み取ってみたものといえばそれは...、じっとりと汗ばんでくるほどしつこい描写力、というところか。普通だな....(笑)
そう、対象へ粘着したまま決してどこへも外れないねちっこい作家の視線。
筆先が登場人物を舐めているような感じ。
ちょうどカメラマンが女優を舐め回すように撮影しているというのと同じような...。
彼女がその名を知らない鳥たち』でも沼田まほかるとかいう作家の特異な視線をずっと肌に感じていた。
登場人物とは別な第3の視線、あるいは視点といってもよいかもしれない、これがビンビンに浮上がった小説が大好きなんだ。
小説は登場人物とストーリー展開だけでは決して成立しないということをつくづくと感じさせられた年越しの読書であった。