『彼女がその名を知らない鳥たち』沼田まほかる著

■『彼女がその名を知らない鳥たち沼田まほかる


人は、憎悪とか嫌悪などのような負の感情に立ち会ったときにこそ、初めて、己の全体重をかけてその対象に肉薄しようとする圧倒的な求心力を自己の内に形成することができるのではないだろうか。

愛とか平和とか、甘やかでだるだるな世界にはない、何かのっぴきならない衝動のただ中に放り出されたことのある人間なら、ピンとくるものがあるに違いない。

己の中に一度ならず形成されたあの竜巻が過ぎ去った後の古傷をさすりながら、そのつめあとの凄まじさを今一度思い出してみたりするのもまた、一興か。