『兎の眼』  灰谷健次郎

兎の眼』 灰谷健次郎

いつのまにか、号泣きしながら読んでいた。


ぬるま湯の頃からクラゲのように浮遊しているので、
あらゆるものが過剰に沸騰している現今の複雑怪奇な熱湯の中でも
まったく無頓着に生きている方だと思う。


こっちはあっちへ、そっちはこっちへと、せっせとデフラグをかけて、
きれいに整理整頓することには長けてきたが、
この複雑なマトリックスの総量自体は少しも軽減されることがない。


整然としてはいるけれども、異様に重たいだけの荷物をしょっぴいて、
うんうん唸っているだけのような気もする。


鉄三ちゃんに言わせれば、
食べられもしないのに大きなうんちにのっかったまんま、
いっこうに離れようとしないイエバエのようだと笑うかもしれない。


シンプルに、ベーシックに、できればひらがなで、
考える、置き換えることの大切さ。
コドモの領分に教わることは、はなはだ多いのである。


白眼がまだ青く透き通っていた頃の、
軽装で迷いのないPricelessな自分は、
もうどこへ行ってしまったかわからないが、
でも、確かに私にも、あったよ、という記憶の片鱗と
対話できたことを思うと、一読の価値はありました。


のどかな春の昼下がりに、こころあたたまる名作を読むことのできる
気持ちのゆとりがあることを、
まずは感謝せねばならないのかもしれないが。

しかし、いくら涙腺が弱いタチとはいえ、
鼻水がいつのまにか鼻血になっていたのには閉口した。
こーゆーところがどーにもこーにも、果てしなくLow-priceな私。


兎の眼 (角川文庫)

兎の眼 (角川文庫)