『向田邦子との二十年』 久世光彦
『向田邦子との二十年』 久世光彦
『向田邦子の恋文』を数年前に読んだとき、
そうか、そうだったのか、向田邦子、ヤルじゃないか!と思ったものだ。
だーぁれにも言わない...のは、心意気というほど強いものでもなく、
かといってセンチメンタルに思いつめたものでもない、
何か、軍隊の行動規範のようなものとして、
粛々と、淡々と、守ってみた程度のものなのではないだろうかと、
勝手に想像してみる。
「ワルイコトだと重々承知でやっておりますゆえ、隠しておるのです、
それが何か?」みたいな。
そこを弟君の久世光彦が、
わかったようなわからないような、
あーでもないこーでもないという面持ちで
右往左往しながら懊悩するさまがなんとも趣深い。
2人の間で、息を合わせて避けていたようなことを、
あの人はやらなかったのに自分はあるときそれを堂々とやってのけて、
「アンタもだろ?」って言ってしまいたかった?
「欲しいと思ったものを、人から奪れるようでなければ人間一流じゃない」
と教えられたのをいいことに、自分だけスキャンダラスにやってのけたのは、
「こうやって奪るんだよ!」って教えたかったから?
ここまで類推するのは邪道というものだろうか。
あえて聞かない-知らんぷりという甘やかな共犯関係でいられたことを、
長らくひっそりと宝物のように愛でていたのに、
老年になって、とうとうガマンしきれず、そぉ〜っと放ってしまったんだな。
こうゆうとこが、オトコのなんとも可愛いらしいところである。
文庫本売り場の新刊コーナーに平積みしてあったものの、
初出はなんと1992年!
『...恋文』よりずぅっ〜と前だったことに軽くオドロきながら、
ひとまかせに読んでしまった。
なるほど、2人はさながら、あ、うんの好敵手であったわけで、
玄人の底惚れという言葉をふと思い出す。
ガッサガサな今の世に、なんとも潤いのある、いいお話し。
アケスケなガールズトークがテレビ番組にまでなる時代。
誰かに何かを言いたくてたまらないのは現代病のひとつなのだろうか。
いやんなっちゃうな。
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