NHK「グレングールド 鍵盤のエクスタシー」

NHK「知る楽:こだわり人物伝 グレングールド 鍵盤のエクスタシー」


疲れて帰宅して、パッと点けたテレビから、グールドの音色。


改造したピアノにぺったり張り付いた猫背姿のグールド。
まるで人馬一体のケンタウロスみたいだ。
スタジオの照明まで味方につけて、
ふんわりと後光を背景に浮かびあがっている。
この世のものではないような音に、
身体の方が先にぎょっとしてヘナヘナっとなる。


いつ見ても冗談のようなあの弾き方。
ちっちゃい子なら指をさして笑うだろうし、
意地の悪い大人なら、フーテンを装った道化芝居と皮肉るんだろう。


なのに、その音色はまちがいなく崇高で、ゾクっとするほど美しい。
世俗にまみれて疲れきった自分はそれに比べてまるで汚わいのようだな、
と思った瞬間、全身がジュワっと溶けて
土に帰してゆくような錯覚に襲われる。


浄化とかカタルシス、あるいはグールドの言う「癒しなおし」って、
身体感覚としてはこおゆう感じ?
すりきれるほどCDを聴いていたのに、
ついぞこんな感覚に陥ったためしはなかった....。


五感でキャッチ。
年に数回あるかないか、こんな偶然の邂逅が、
狂おしいほど愛おしい。